『長谷川潔展』

2011 / 06 / 21 by
Filed under: 展覧会日記 
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『長谷川潔展』

『長谷川潔展』

2011年6月18日(土)は横浜美術館で、2011年4月29日(金)~6月26日(日)の会期でおこなわれている標記展覧会を見てきました。

まるで、世界の一瞬を切り取り、氷の中に封じ込めたかのような。
あたかも、遠い過去から、はるか未来まで永遠に存在し続けるような。
無音過ぎて、しーんと耳鳴りが聞こえそうなほどの静寂さを湛えたその深く静かな黒。
実に素晴らしく、いつまでも見入ってしまいます。

銅原版も展示されていましたが、刻まれた線のあまりの細かさに目眩がしそうです。なんという恐るべき集中力。
これだけの気迫と技能、そして途絶えていたメゾチントを独力で再興した創意工夫。
それらが込められているからこそ、これだけ心揺さぶる版画ができあがるんですね。

この黒の柔らかさはどのように讃えればいいのか言葉が見つからない。長谷川潔というと、そういった晩年の黒勝ちの銅版画で有名です。私もその幻想的な雰囲気が大好きです。しかし、前期木版画のざっくりとした彫りも、味があってよかった。また、堀口大学の詩集の表紙や挿絵、外函の絵として彫られた、小さな木口木版の彫りの細密さには目が瞠らされました。この細かさが後の銅版画につながるのかなぁ、と印象に残った次第。

もちろん転機となった「一樹(ニレの木)」も素晴らしかった。

本展覧会の入口にある「ごあいさつ」によると、横浜美術館は、その開館前から20年以上もかけて660点の版画を始め、油彩画、素描、下絵等1,350点以上を収蔵し、体系的な長谷川潔コレクションを形成しているという。

いやぁ、いいものを見せていただきました。

でも横浜美術館も罪ですよねぇ。これほど膨大なコレクションを死蔵しているなんて。ええ重大な犯罪行為ですとも。

本展覧会の会期は、当初『プーシキン美術館展』が予定されていました。しかし東日本大震災のために中止を余儀なくされ、仕方なく収蔵品展としてこの『長谷川潔展』を開催した、という状況ですよね。
前回、横浜美術館で開催された長谷川展は2006年1月とのことですが、このような不幸がなかったならば、我々は次はいつ長谷川潔作品を目にすることができたのか。どれだけの期間、横浜美術館は倉庫に偉大な作品群を死蔵し続けたのか。それを考えると空恐ろしくなりませんか。

保存のことを考えれば、そうそう外光に晒せるか、って理屈なんでしょうか。
でも収蔵品ならば、もっとふだんから常設展示室で展示がなされてもよさそうなもの、と思うのは、作品管理について私が無知過ぎるからですか。

企画展もいいですが、やっぱ美術館は己が収蔵品をもっと積極的に公開すべきなんじゃないですかねぇ。
そんなことを痛感した展覧会でした。



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