『鯰絵とボードレール展』
2012年8月4日(土)は神奈川県立近代美術館鎌倉で標記展覧会を観てきました。
鯰絵。地下に棲む巨大な鯰が地震を起こすという伝承に関わる浮世絵。
ボードレール。「悪の華」で有名な19世紀フランスのデカダン派詩人。
このタイトル、なんか想像力をくすぐると思いませんか? この二つに何か関連性があるんだろうか。
ボードレールの詩が取り入れられた鯰絵。鯰絵にインスパイアされた詩を書いたボードレール。
そんなものが存在してたりして、などと、斜め上な想像の翼がはためいちゃいましたよ。
で、結論から言うと、鯰絵とボードレールには何の関係もありませんでした(ずこー)。
本展は、寄贈されたコレクションを展示したものです。そのコレクションの持ち主だったのは気谷誠という人。
この方は在野の研究者で、ボードレールと同時代の銅版画家シャルル・メリヨンについての研究や西洋版画のコレクションで知られた人とのこと。一方で鯰絵についての研究者でありコレクターでもあった方なんだそうです。
本展はご遺族から寄贈された気谷コレクションのお披露目展。
鯰絵編では、各種鯰絵やそれに関連する浮世絵が展示されています。
また、「持丸長者絵」という、排便する男たちを描いた絵が何枚もあります。ひり出された大便はすべて小判や銭。これは一体何でしょう? 持丸長者というのは金持ちのことだそうです。
ボードレール編では、柄澤齊という版画家がメリヨンに触発されて創作した作品をメインに若干の西洋版画が展示されています。
ボードレールは展示物に一切関わりありません。なんという肩すかし!
まぁサイトやチラシに書かれた文章から何となく察しはついてましたけど、あらためて説明されると、ずっこけざるを得ない。
でもまぁ鯰絵を観たかったから別にかまわないんです。おかげで鯰絵についてちゃんとした知見が得られましたし。てゆーかけっこう満足できました。
江戸時代というと頻発する大地震、大地震と言うと鯰絵、ってなわけで、鯰絵というのは江戸時代においてけっこう普遍的に存在するもんだとばかり思っていましたが、その実態はずいぶん異なるものでした。
鯰絵というのは江戸時代のある特定の時期にごく短期間だけ存在していたんだそうです。しかも爆発的に。
それは安政の大地震(安政2年10月2日、1855年11月11日)が契機となっています。
地震直後は、地下に棲む大鯰が暴れて大災害が発生している様子が描かれた。ある意味、地震のドキュメンタリーですね。
あるいは、鯰を抑える要石と鹿島神宮をテーマとしたものも描かれた。地震封じ、つまり災害忌避対策ですね。
やがて鯰絵は、大地震からの復興で大工や材木屋などの職人や商人が儲ける様子を風刺したものに変質していったという。
そして世間を騒がず内容にまで踏み込んだものも現れ、ついにはお上が版木をすべて破壊。鯰絵は消滅。その間わずか2ヶ月のことだそうです。
絵の内容が現実の描写や迷信から経済へ移行する様子。
復興特需で儲ける職人や商人への嫉妬。
妖怪好き的な見方しかしてませんでしたが、鯰絵というのは、ずいぶん多角的な、実に奥が深いものだったんですねぇ。
9月1日(土)には学芸員による展示作品の説明がおこなわれるということなので、もっぺん行って、持丸長者絵について聞いてこようかなぁと思うくらい興味をそそられる、実に面白い展覧会でした。
会期は2012年6月23日(土)~9月9日(日)。
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