『ブリューゲル版画の世界』

2010 / 08 / 14 by
Filed under: 展覧会日記 
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『ブリューゲル版画の世界』

『ブリューゲル版画の世界』

平成22年8月14日(土)はあちこちで展覧会を見てきたんですが、まずは渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで平成22年7月17日(土)~8月29日(日)まで開催されている標記展覧会について。

思い切りが悪いというか、吹っ切れていないというか、中途半端というか、いまいちキュレータの腰が引けてるなぁ、という印象が否めないのが、ちょっとばかり残念でした。
ポスターやチラシ、ウェブサイト、会場に飾られたアクセントなどには、「聖アントニウスの誘惑」をはじめとする宗教的テーマを描いた版画に登場するヒエロニムス・ボス風の異形たちが、これでもかとばかりに、ふんだんに盛り込まれている。つまりこの展覧会はグロを売りにしてるんです、って意思表明なわけでしょ?

それなのに、全9章構成(うち最初と最後はプロローグ、エピローグなので番号がついた章は7つ)のうち、そのものズバリなのは第2章だけ。
4章と5章で若干それっぽいのが出てくるけど、ほとんどは、アルプスの風景(第1章)だとか、帆船(第3章)だとか、当時の民衆や農民の暮らしを活写したもの(第6章、第7章)だとか、優等生的なテーマばかり。この構成はちょっと騙された感ありで釈然といたしませぬ。

ところで、ブリューゲルと言えば人間風刺の寓話や諺の絵解きがすぐに思い起こされます。それは第4章と第5章にまとめられていました(といっても諺関連のブリューゲルの版画は2点だけだったけど)。このような複数の諺を描いた絵画や版画を「青いマント」と呼ぶそうな。
「盲人が盲人を導けば二人とも穴に落ちる」という版画はブリューゲルでない作者によるものが展示されていたけど、ブリューゲルの「盲人の寓話」の方が迫力あるなぁ。

そして一番のお目当てである第2章の宗教的テーマの版画。
七つの大罪をテーマにした版画をはじめとして、このコーナーに転じされた版画に表現された、イマジネーションの奔流とも呼ぶべきデザインは素晴らしい。まぁブリューゲルのオリジナルじゃなくて、ヒエロニムス・ボスへのオマージュ(「快楽の園」の地獄に出てくるキャラクターたち)だそうだから、むしろ讃えるべきはボスか。

でもまぁ、16世紀の版画をこれだけまとまって見ることができる機会というのはあまりないと思うので、とても意義のある展覧会だと思います。

ところでちょっと考えれば当たり前のことだけど、版画が作られるに当たって、下絵画家、彫版師、発行者という三つの役割を担う人たちが分業していたそうな。浮世絵も絵師、彫師、摺師、版元がいますもんね。

で、ブリューゲルはそのうち下絵画家だったようですが、今回展示されていた版画で唯一ブリューゲル本人が彫った版画というものが展示されていたんです。「野うさぎ狩りのある風景」という作品なんですが、その線がヘロヘロであまりのヘボさに驚愕しました。

版画にしても浮世絵にしても、名前が出るのは画家だけなので、その作品の毀誉褒貶はすべて画家に帰するもの、と考えてしまうけど、版画は彫版師も非常に重要な役割を担っていたんだよな、と改めて感じた次第。



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