『没後30年 朝井閑右衛門展』

2012 / 12 / 22 by
Filed under: 展覧会日記 
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『没後30年 朝井閑右衛門展』

『没後30年 朝井閑右衛門展』

今年は横須賀美術館が開館して5年目で、それを記念してけっこう力が入ってます。そんな企画展のひとつである標記展覧会を、前期分を2012年12月2日(日)に、後期分を2012年12月16日(日)に観てきました。会期は2012年11月3日(土)~12月25日(火)。

まず展覧会の内容に触れる前に一言申し述べたい。

「遅すぎる!」

朝井閑右衛門という画家は1946年から20年間ばかり横須賀市田浦という土地にアトリエを構え、のちに鎌倉に移住、そこで亡くなった方だそうです。生前は個展も開催せず画集も出さずという、中央画壇から一歩引いた生き方をしていた人だったとのこと。
1996年、そのような縁で、横須賀市は遺族から作品や資料などの寄贈を受けました。横須賀美術館は2007年に開館しましたが、横須賀市が美術館を持つことになった契機のひとつが、この膨大な朝井コレクションだったんです。それを記念して常設展エリアに朝井閑右衛門室を設けて、朝井作品や資料が常に見られます。

言わば、横須賀美術館の顔と呼ぶべき画家なんです閑右衛門さんは。

それゆえ横須賀美術館は「個人作家のこれだけまとまった膨大なコレクションを所蔵しています」と初年度におおいに訴えるべきでした。作品所有者である市民に向けても、今後大勢訪れてほしい市外に向けても。
一番最初の企画展が「朝井閑右衛門回顧展」でも良かったくらいなんじゃないですかねー。
ところがこけら落としは、鬼面人を驚かす類のコンテンポラリー・アートがセールスポイントの展覧会。当時は涙に袖濡らしたものですグショグショに。

まぁそれはさておき展覧会の話。
朝井閑右衛門室で今まで観てきた作品はいずれも、その色遣いといいマチエールといい、ジョルジュ・ルオーを想起させる抒情性あふれる油彩画ばかりでした。しかし今回はそういう厚塗りでない作品もいろいろと展示されており、見直す機会となりました。

特に衝撃を受けたのは、神奈川県立近代美術館が所蔵する「過去現在因果経」という水墨・岩彩の絵巻です(前期のみ)。
かなり横長で、その中央には逆さまに立った僧侶がいる丸い光のようなものがあります。そして画面両側には、火だるまになった人や阿修羅のようなものがその光から逃げ惑ったり、力尽きて倒れたりといった様子が描かれているという、何とも凄まじいもの。どう見ても人や修羅が仏の光に焼き殺されているとしか思えない、仏の慈悲ではなく無慈悲を描いたような感じ(一部)。

まぁそれは別格として、やはりルオー的絵画の方が好みですかねぇ。とくに田浦時代に描きまくったという「電線風景」はイイです。田浦にはJRと京浜急行が交差している場所がありまして、その2車線の電線をテーマとした作品群。田浦アトリエはそのそばだったらしい。
何気ない現実の風景が歪みに歪んで幻想的と呼べる風景にまで変貌しています。小説でいうと牧野信一の世界に通ずる印象を受けました。実際、朝井と牧野は親交があったらしい。

しかしちょっと残念だったのは、電線風景で最も幻想的なもの(今回のキービジュアルにもなっている絵)が神奈川県立近代美術館所蔵だったということ。

2回目はギャラリートークが開催される日に行きました。解説中、ルオーの影響の話が出て、文献的には残っていないということでした。しかしどう見てもルオーなので、それは当たり前の前提ということで研究者間には了解されているのではないか、ということでした。
寄贈を受けた蔵書の中にはもちろんルオーもあったということでしたが、ルオーの影響について本人から証言があったとかいう話は特にないようです。

この展覧会、横須賀美術館単独展覧会だとばかり思っていたら、田辺市立美術館との共催とのこと。2013年1月12日(土)から2月17日(日)が会期だそうです。なぜ和歌山なのか。朝井家は紀州藩に仕えた武家の家柄だそうで、その縁からでしょうか。

ところでもうひとり、横須賀市が膨大な数の作品や資料の寄贈を受けた作家がいます。
その名は月岡榮貴。その数およそ1,000点!
ぜひとも「月岡榮貴回顧展」も開催してもらいたいものです近々に。



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