『奇想の自然-レンブラント以前の北方版画』
『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』を見た後は、そのまま国立西洋美術館の常設展示コーナーへ移動。同じ2011年3月12日(土)~6月12日(日)の会期で、版画素描展示室でおこなわれている標記展覧会を見ます。
「奇想」という言い回しと本展覧会のキービジュアルになっていたルカス・クラーナハによる「聖アントニウスの誘惑」が実にソソるものだったんで期待していたんです。
しかし普通っぽい絵も多く、全体的に見た場合、奇想と呼ぶには薄味なチョイスじゃないでしょうかね。
これなら『アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然』と同時におこなわれていた『19世紀フランス版画の闇と光』の方が、ブレダンなどの幻想的な風景画が目白押しで、奇想と呼ぶに値したと思います。ルドンの「聖アントワーヌの誘惑」もあったしね。
とは言うものの、今回キービジュアルになっている、そして本展覧会の一番最初に飾られていた「聖アントニウスの誘惑」のイマジネーションはまさに奇想としか呼びようのない、とても素晴らしいものでした。
「聖アントニウスの誘惑」と言えば、画家の想像力をいたく刺激する題材のようで、過去多くの作家がビジュアル化してきました。
アントニウスを悩ます悪魔たちの形状は、作家ごとに千変万化。実に面白いですが、今、話題にしているルカス・クラーナハによる「聖アントワーヌの誘惑」の悪魔は、獣と昆虫が混ざった形態に描かれています。
脊椎動物と無脊椎動物の混合という無謀な合体具合は、かなり独自性高いんじゃないでしょうか。何とも言えない不協和音を醸し出していて、実に味わい深い。
ところで常設展示室には、現在この他にも2枚の「聖アントニウスの誘惑」が展示されています。
ダフィット・テニールス(子)によるものとアンリ・ファンタン=ラトゥールによるものです。
前者はヒエロニムス・ボッスの後継といった印象で、生物と無生物が混ざったようなユーモラスな悪魔が描かれています。17世紀の絵画コーナーに飾られています。
後者で描かれているのは、不可解な形状をした悪魔ではなく、色欲に訴える女性たちの楽しそうに円舞として表現されています。
怪獣的な造形でないので、鬼面人を驚かす的な印象はありませんが、なかなか不気味な感じの絵です。
「誘惑」を外的存在の悪魔によるものとみなさず、アントニウス自身の心の葛藤として捉えているってことでしょうか。19世紀の絵画(印象派以降)コーナーに飾られています。
なお、国立西洋美術館の収蔵品検索を調べてみたら他にも以下の「聖アントニウスの誘惑」を所持しているそうです。
ジャン=ルイ・フォラン
ジャック・カロ
オディロン・ルドン『聖アントワーヌの誘惑』第1集
- 表題紙
- ・・・まず最初に水溜まり、次いで娼婦、神殿の隅、兵隊の姿、後ろ足で立つ二頭の白い馬に曳かれた戦車
- それは二つの翼の下に七つの大罪を抱えた悪魔である
- ・・・そして空から舞い降りてきた一羽の大きな鳥が、彼女の髪の頂きに襲いかかる・・・
- 彼は青銅の壺を持ち上げる
- それから魚の体に人間の頭を持った奇妙なものが現れる
- それは薔薇の冠を被った死の頭部である。それは真珠貝の白さを持つ女の胴体に君臨している
- ・・・緑色の目をしたキマイラが回転し、咆吼する
- そして、あらゆる種類の恐ろしい動物達が現れる
- 至る所に瞳が燃えさかる
- ・・・そして太陽のまさに円盤の中に、イエス=キリストの顔が輝く
ちなみに私はサルバドール・ダリの「聖アントワーヌの誘惑」が好きです。
キリンのように細くて長い脚を持ったゾウのパレードが、静かながらも狂気をはらんでる感じで良いっす。
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