『シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い』

東京藝術大学大学美術館
平成22年9月18日(土)は、上野の東京藝術大学大学美術館で標記展覧会を見てきました。
これはパリのポンピドゥー・センターが所蔵する作品の展覧会で、マルク・シャガールをメインに、同時代のロシア前衛作家たちの作品で構成されています。ポンピドゥー・センターと言えば、今年建てられた分館の設計に日本人が関わったってことで、ちょっとばかり話題になりましたね。
ところでロシアといえば、ロシア・アバンギャルドやロシア構成主義(昔はソビエト構成主義と呼んだような記憶があるなぁ)といったかなり独自な芸術様式がすぐさま思い浮かびます。
それらの様式にはキュビスム、未来派、レイヨニスム、オルフィスム、シュプレマティスムといった関連様式があるということをこの展覧会を見て知りました。レイヨニスム以降のは初めて聞くものばかり。勉強になるなぁ。
今回展示されていた作品で心に残ったものを以下に列挙します。
「葡萄を搾る足」「孔雀」(ナターリヤ・ゴンチャローワ)
組作品<刈り入れ>9面のうちのふたつ。テーマは違いますが、色遣いや描き方は同じ。
赤、朱、橙、黄、紺。これら色の組み合わせの鮮烈さには目が覚める思いです。
「帽子をかぶった貴婦人」(ナターリヤ・ゴンチャローワ)
キュビスムによって描かれた女性像。分割の仕方と色遣いが印象的。
「舞台の肖像 幕の後ろで」(ナターリヤ・ゴンチャローワ)
連作<舞台の肖像>のひとつ。
墨の滲みとくすんだ赤のみで描かれた絵。その赤の色味と黒の滲みの取り合わせが印象的。
「タトリンの肖像」(ミハイル・ラリオーノフ)
描き方はキュビスムっぽいんだけど、使っている色が何か印象派っぽいなぁ、と思っていたら、これがレイヨニスム(光線主義)という様式で描かれた作品とのことで納得しました。
「アルファ」「ゴタ」「ゼタ」(カジミール・マレーヴィチ)
これらは石膏による立体造形で、作家によるオリジナルではなく、復元された物の、更に複製だそうです。
建築物を建てるために作る模型っぽく見えなくもないですが、実はそうではなく長方体を組み合わせてビルっぽい見かけにしただけもの。
これは「アルヒテクトン」と呼ばれるものだそうで、実用性・機能性は求めずに、ダイナミックで空想的な建築の追求をしたものとのこと。
「彼女を巡って」「村の魂」(マルク・シャガール)

『シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い』
キスをする男女や踊る人、サーカスの曲芸師などのモチーフや、明るい色調などのため、割と人々から好かれているようですが、本展覧会でも展示されていた「ロシアとロバとその他のものに」(この展覧会のポスターのモチーフとなっている絵画→)や「私と村」「青いサーカス」など、何のわだかまりもなく「この絵は好ましい」とは言い難い絵もあります。
例えば「私と村」などは99%は好ましいと思いますが、残り1%に何か不安なものというか忌避すべき暗さが混入しているような想いを抱きます。「ロシアとロバとその他のものに」の右上の女性は首が飛んでいるうえに、銃創のような穴が体中に描かれていて、かなり不気味。
シャガールの絵のうち、ベースが青、紺、黒系統の絵には、何か不吉な雰囲気が漂っているものあるように思えます。
そんなシャガールのダークサイド100%の不気味全開といった趣のある絵がこの2点。
「彼女を巡って」は旧作「サーカスの人々」という絵の左半面だけをリメイクしたもので、妻の死後、初めて描かれた作品とのこと。
左下にいる男性の顔が反転しているのが、かなり不気味ですが、これは元の絵の「サーカスの人々」でもそうなっていました。
しかしそんなモチーフが描かれた半面だけをリメイクしたってところに、愛する妻を失った強い悲しみが溢れているような気がします。
「村の魂」からは、本展覧会に出品されている絵画で、最も病的な印象を強く受けました。集合的無意識の底に潜む虚無のような恐ろしさを感じます。
本展覧会の会期は平成22年7月3日(土)~10月11日(月)。その後、福岡市美術館に巡回するとのこと。
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