『マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ』

2012 / 06 / 05 by
Filed under: 展覧会日記 
Bookmark this on Delicious
[`livedoor` not found]
[`yahoo` not found]

『マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ』

『マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ』

横浜美術館で標記展覧会を見てきました。
会期が2012年4月7日(土)~6月24日(日)の本展覧会は、前期・後期で入れ替わる作品があるとのことだったので、2012年5月16日(水)に前期分を、2012年6月2日(土)に後期分を見た次第。

本展覧会は横浜美術館愛知県美術館宇都宮美術館の3館共同企画とのこと。
横浜を皮切りに、愛知では2012年7月13日(金)~9月9日(日)、宇都宮では2012年10月28日(日)~12月16日(日)の会期で開催されるらしいです。

横浜美術館は「ダリとシュルレアリスムの部屋」と名付けた常設展示室を設けるほどシュルレアリスムに力を入れていて、エルンストのコラージュロマン原画もいくつか収蔵してますが、愛知県美や宇都宮美もシュルレアリスム作品の収蔵に力を入れていたんですかね。その割に本展の展示作品ではむしろ岡崎市美術館が目立ってますが。

ところで、私はしばしば水木しげるマンガの元ネタの話としてエルンストについて触れてきましたが、今回もやっぱりソレな話。

「もののけ」の元ネタ

まずは、『博物誌』のうちの1点である「逃亡者(本展覧会でのタイトルは「脱走者」)」に見惚れてきた、ということから述べねばなりますまい。これが前期に展示されていたら、後期の本展には行かなかったでしょう。
去年の9月に信濃町のアートコンプレックス・センター見てきたばかりだけど何度も何度も何度でも見たい、それほど好きな作品です。
なお、そのときのレポにも書きましたが「がんばれ悪魔くん」の「なんじゃもんじゃ」というエピソードに出てくる「もののけ」の造形の元ネタです。

『博物誌』はエルンストが発明したフロッタージュによる作品群で、おのおの動植物を思わせる図像を描き出したものです。
『博物誌』の他の作品に比べ、この『逃亡者』に描かれた図像は、まさにこのような動物の実在を感じさせる、リアルな感じがとても強い作品だと思います。

「ぬりかべ」の元ネタ

もうかれこれ30年以上も前になりますかねぇ。
小学館から「入門百科シリーズ」という子ども向けの叢書が出てまして、その1冊として「妖怪なんでも入門」という本が出ていました(長らく絶版でしたが10年ほど前に「水木しげる妖怪大百科」というタイトルで復刊。京極夏彦先生の尽力か?)。
この本は妖怪図鑑でして、数多くの妖怪が描かれおり、その中に「ぬりかべ」もあります。

ぬりかべというと、ゲゲゲの鬼太郎では、はんぺんのような四隅が丸くなった長方形の体から手足が生え、眠そうな目をした、かわいらしい妖怪として描かれていますが、妖怪なんでも入門に描かれたぬりかべはずいぶん異なります。

森の中の道に四角形の白い巨大な長方形が立ちはだかっています。そしてその中に、目、鼻、口を思わせるものが描かれています。目はまん丸で盛り上がったボタンのような形状、鼻は縦長の三角錐、そして粘土に刻んだ切り込みのような横線が口のように見えます。
鬼太郎に出てくるぬりかべと違って、なんか虚ろな表情が不気味な図像です。

実はこれエルンストの彫像作品が元ネタ。『人=鳥頭』というブロンズがそれ。
話には聞いていましたが、現物初めて見ましたよ。出品作品リストには「新潟県立美術館・万代島美術館」所蔵という書かれ方がされています。どういうことかとググってみたら万代島美術館というのは新潟県立美術館の分館だとのこと。

なお、『人=鳥頭』の写真はここここにあります。

「怪奇オリンピックの参加者」の元ネタ

エルンストは「森」をテーマにした同様のモチーフを描いた絵が複数あります。
本展覧会でも「森」「石化した太陽」「森と太陽」がまとめて展示されていました。その絵には太い枯れ木をたくさん積み重ねたようなオブジェが描かれています。

本展では展示されていませんでしたが、この系統の絵画に、個人蔵の「ポルト・サン・ドニの夜景から触発されたヴィジョン」という作品と、バーゼル美術館所蔵の「大いなる森」という作品とがあります(バーゼル美術館所蔵品リストの方は直リンクできないようなので辿り順を説明します。sammlung で表示される Künstler von A-Z という文字列をクリックしてから、アルファベットの E を選ぶと一番下に Ernst Max と表示されます。それをクリックすると一番上に「大いなる森」が表示されます)。

これらは、貸本時代のマンガ『墓場鬼太郎』の「アホな男」というエピソードで登場する、地獄で開催される怪奇オリンピックに参加する怪物として引用されています。前者は「あるく植物」として、後者はオアシスを思わせる巨大な生物として。
角川文庫の「墓場鬼太郎 第6巻」で見ることができます。
ノイタミナで放映されたアニメ版『墓場鬼太郎』の「アホな男」は最終話なのでDVD第4巻に収録されています。

以上、水木作品の元ネタ話でしたが、水木作品ではないマンガを思い起こさせるエルンスト作品もあったので、それについても触れましょう。

諸星大二郎と漫画家の『妖怪ハンター』という作品があります。その記念すべき第1回目「黒い探究者」というエピソードに「ヒルコ」という実に不気味な形状の生物が登場します。
「黒い探究者」のストーリー中に、古墳の内部に描かれた絵の中にヒルコが描かれている、というシーケンスが出てくるんですが、その装飾古墳の絵のヒルコが、エルンストの「偉大なる無知の人」という作品の下部に描かれた図形とそっくり。

生物としてのヒルコの元ネタはサルバドール・ダリの「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」に描かれた図像と聞いていたんですが、実はエルンストも参照されていたのかなぁ、などを思いながら、本展覧会を見てきました。



Comments

Tell me what you're thinking...
and oh, if you want a pic to show with your comment, go get a gravatar!





WP-SpamFree by Pole Position Marketing