『多賀 新 ―線描の魔術師―』

2012 / 12 / 14 by
Filed under: 展覧会日記 
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『多賀 新 ―線描の魔術師―』

『多賀 新 ―線描の魔術師―』

もう30年くらい前ですかねー。春陽堂書店という出版社から文庫版の江戸川乱歩全集が刊行されまして、そのカバー絵に強い衝撃を受けました。

細密な線。モノクロームのグラデーションの美しさ。エロスとタナトスが支配する暗黒幻想世界を描いた緻密な画面構成。心を鷲掴む絵の数々に酔い痴れたもんです。

江戸川乱歩はそれほど興味ないのに、カバー目当てで毎月刊行される文庫本を買い続けました。それらの文庫本は積ん読のまま月日が経ち、やがてそのカバー絵をまとめた画集が出版されました(「銅版画・江戸川乱歩の世界」)。もちろん即買い。文庫本の方は散逸してしまったのでした。そんな過去の想ひ出。

それらの心躍る絵を描いたのは多賀新というお名前の版画家でした。
その多賀新の展覧会が2012年11月3日(土)~2012年12月16日(日)の会期で開催されるというので、終了間際の2012年12月12日(水)、会場である芳澤ガーデンギャラリーへ行ってきた次第。

ここは公益財団法人市川市文化振興財団が運営しているとのことですが、実質的には市営と考えていいんでしょうかね。JR市川駅から15分程度の住宅地の奥で、とても閑静な環境に建っています。ふだんは市民公募展の発表会などに使われていそうな、超地元密着施設という印象。近所のご老人たちがいつも一息入れていそうな暖かい雰囲気がとても好ましくてステキです。
こういう場所で、あまり大衆受けしなさそうな多賀新の展覧会が開かれるなんて、市川市ってチャレンジャーだなぁ、と思っていたら、多賀さんは市川市民であるとのこと。なるほど地元芸術家の展覧会という位置づけだったのですね。

会場は全4章立て。

第1章では、江戸川乱歩全集のカバーに使われた30作品から14点が展示されています。
いやぁ圧巻ですねぇ。展示されているものからお気に入りを挙げると、まずは本展のキービジュアルになっている「飛来」。これは「パノラマ島奇談」のカバーとして採用されています。そして「合体図」。これは「幽霊塔」のカバー。次に「待つ女」。これは「屋根裏の散歩者」のカバー。最後に「埋れる器」。これは「人間椅子」のカバー。
この辺りが好きだったなぁ。

第2章では、魚シリーズという作品群が展示されています。
作家自らが最も脂が乗っていた時期の作品群と認めるものだそうで、インドで受けた衝撃に強く影響されているとのこと。そう言われると仏教的輪廻感というか無常観というか、そういったものが漂っている気もします。

第3章では、それら以外のエッチングと鉛筆画が展示されています。
エロスとタナトスに溢れた静寂な画面が美しい。

第4章では、仏を描いた版画や鉛筆画が展示されています。
多賀さんは52歳のとき食道ガンを患い、そこから奇跡の生還を遂げたとか。以降、その興味は仏を描くことに移ったという。
かなりの集中力を要求するであろう、細密な描線を駆使したエッチングは健在。しかし、かつての暗黒成分はずいぶん薄まって、静謐な仏の世界が描かれています。
一方でとても太く力強い描線を使ったダイナミックな「龍神舞」という鉛筆画もあり、とても大病で生死の境をさ迷った後の作品とは思えない数々を拝見しました。

それ以外に、立体造形、エッチング原版3点、鑿などの道具、作家画集、春陽堂文庫江戸川乱歩全集ボックスケース、そして装丁画を描いた本なども並んでいました。

そこでびっくり。松本零士「ニーベルングの指環」(新潮コミック)のカバー絵。松本零士ではないのは見て分っていたけど、多賀新だったのか!

かつて強く心躍らされた版画のオリジナルを堪能し、原版に感嘆し、新たな発見もあった。
そんな素晴らしい時間を過ごさせていただきました。ありがとう市川市!



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