『諸国畸人伝』
2010年10月9日(土)は、板橋区立美術館に行ってきました。2010年9月4日(土)~10月11日(月)の会期でおこなわれている標記展覧会を見に。
この美術館は、個人的にツボな面白い企画を打ち出してくるんで楽しみにしているんですが(遠いのが難点、近場だったら全部の企画展に行きたいくらい好き)、今回もまたステキな時間を楽しませていただきました。
はっきり言ってこの展覧会で展示されている絵はヘタな部類に入ると思います。
しかしそんなことは問題じゃない。それぞれの絵師の執念や奇想といったその個性には圧倒されます。
江戸期の絵師10人が紹介されているんですが、私は狩野一信が気に入りました。
以下、今回展示されていた絵から、印象に残ったものについて徒然なるままに。
狩野一信
「五百羅漢図 第50幅 十二頭陀・露地常坐」
夜、森の水べりで座禅する羅漢たちが描かれている絵ですが、光と陰の使い方がとても江戸時代の絵とは思われないような不思議な表現のされ方をしています。西洋の象徴主義を思わせる、本来ならありがたい絵のはずなのに、かなり不気味さを感じさせる絵。
「五百羅漢図 第55幅 神通」
羅漢が顔の皮をめくると下から観音の顔が現れる。TV朝日のドラマの明智小五郎みたいで、場が凍りつきそうな、観客ドン引きな絵。御仏の荘厳さを表現しているものなんだろうけど、ギャグになってしまっているといった感じ。
「五百羅漢図 第71幅 龍供 」
竜宮から招かれた羅漢たちが各々、魚や龍、虎、貝殻、蓮の葉などに騎乗して、あるいは自力で海上を進む様子を描いた絵。
西遊記や封神演技といった中国の伝奇小説にでてくるような世界感。
狩野一信の五百羅漢図は「無為庵乃書窓」というサイトの「狩野一信の五百羅漢図」で見ることができます。
行って、そのキモさを味わってほしい。なお、上に挙げた幅数と異なっています(リンク先ではそれぞれ、第二十五幅の右半分、第二十八幅の右半分第三十六幅の右半分です)。
菅井梅関
「虎図」と題された、虎を描いた絵が二枚展示されていました。括目すべきはその毛並みの表現。フワフワした手触りすら感じられそうな迫真性がすばらしいです。
林十江
「龍図」
水墨画なんですが、筆ではなく、指の腹や爪を使って描かれたもので、このような技法で描かれたものを「指頭画」と呼ぶとのこと。
筆による水墨画と異なり、とげとげしく、荒々しい、力強い印象を表現することができています。
そういえば、小学生のときに図工で、割り箸を削ってとがらせたものの先に絵の具をつけて絵を描くということをやったけど、それって江戸時代にあった技法だったんだな。
中村芳中
「白梅図」
この絵師の絵は全部で5幅展示されており、そのいずれものかなりヘタです。
でもこの絵にだけは目を引かれました。
梅の幹や枝の部分は、水彩画のように複数の色を滲ませており、とてもキレイです。
日本画であまり色の滲みというものは見た記憶がなかったんで、印象に残りました。
加藤信清
今回紹介されていた絵師の中で最も個性的な表現を用いている人。
てゆうか、本人、絵師という意識はなく、キリスト教的に言うと、神の下僕を任じていた人なんじゃないかと思う。
自分は絵師だ、という認識を持っていたら、こういう発想はできないでしょう。
どういう表現かというと、絵を線ではなく、文字も集合で描くということをしています。
文字で描くといっても「へのへのもへじ」や「ひまむしょ入道」みたいなことじゃなく、点描の点のように文字を使うというやり方。
この執念と集中力は宗教心にでも裏打ちされないと、とてもじゃないけど不可能でしょう。狂信的とも言えるその行為には圧倒されて声が出ない。
現物はそれなりの距離に配置されているので、実際にどのように文字が描かれているのかまでは認識できないんですが、そのような位置から絵を見た印象としては以下のようなことを感じました。
ふつうに筆で線を引いたものに比べると、かなり柔らかい印象を受けます。
文字を使った点描になっているため、輪郭線の部分を見ると、黒が連続的にみっしりと充満しておらず、まるで空気が混じってスカスカになったように見えます。
で、どうも着彩部分も色をベタっと塗っているわけではなく、それぞれの色で文字を描いているらしい。その結果、遠目から見ると、紙の地の白と画材の色が混ざりあって、まるでパステルカラーで塗られているように感じられ、そんなところからも柔らかい印象を受けるんだと思います。
ところで本展覧会のタイトル、「諸国里人談」をもじっているのかと思ったら、寛政2(1790)年に伴蒿蹊という人が書いた「近世畸人伝」という本があり、それをもじっていたとのこと。またひとつ知恵をつけた。
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