『アール・ブリュット・ジャポネ展』

2011 / 05 / 04 by
Filed under: 展覧会日記 
Bookmark this on Delicious
[`livedoor` not found]
[`yahoo` not found]

『アール・ブリュット・ジャポネ展』

『アール・ブリュット・ジャポネ展』

2011年5月3日(火)は京浜東北線で北浦和駅まで遠征してきました。
目的は、埼玉県立近代美術館において2011年4月9日(土)~5月15日(日)の会期でおこなわれている標記展覧会です。
この展覧会は、おフランスはパリのアル・サン・ピエール美術館で開催された "ART BRUT JAPONAIS" の、日本における凱旋展になります。

品川から京浜東北線(各駅)に乗ったんですが、まさかそこから1時間以上も費やすとは…… ウチの最寄り駅から品川まで1時間だったことを考えると…… 埼玉県ってのは遠いですのう。
ところで、なぜ私は、わざわざ埼玉などという遠くまで行って、この展覧会を見ようと思ったのか。

それはもう1年近くも前のこと。2010年6月20日(日)の「日曜美術館」は『絶対唯一のアートの衝撃 ~日本のアール・ブリュット、パリ上陸!!』というタイトルで、このパリでの "ART BRUT JAPONAIS" を取り上げていたんです。
そこで紹介されていた一人の作り手の描いた絵画に、とても強い衝撃を受けました。これは実物を見てみたいもんだなぁ、とそのとき思ったんですが、1年近く経ったこの度、日本でその絵が見られるということを知ったので、行ってきた次第。


埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館


ところで、展覧会場入り口にあるごあいさつ文の中に、以下のような言葉がありました。

ヨーロッパのアール・ブリュットはもともと、精神疾患の患者や霊媒師、社会の周縁にいたマージナルな人々によるアートであった。
アメリカのアウトサイダー・アートはヨーロッパ的なアール・ブリュットと邂逅する以前は、民俗的なアートをもとに考えられていた。
日本におけるアール・ブリュットへの関心はハンディキャップがある人々の社会参加と認知を推進するという考えと結びついている。

そもそもアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)ってのは正規の美術教育を受けていない人によるアートということであって、別に精神障害や知能障害といったハンディキャッパーの作るアートに限らないはずなんですよねー(まぁメインはそういった人々であるようですが)。
作品の紹介はそこそこに、その作り手(ハンディキャッパー、特に知的発達障害者)の容姿や日常を丹念に描いた本を何冊か見たことがあります。それらを見て、何か政治的だなぁ、という不快感を持ったんですが(作品紹介がなされていれば、そういう印象は持たなかったと思いますが)、上記の文を読んで得心しました。
もしかしたら、日本のアール・ブリュット・シーンは、作品それ自体にはあまり興味を抱いていないんじゃなかろうか。
私は、アール・ブリュットに限らず、作り手がどんな人間かは関係ない、作品それ自体の素晴らしさに感動できれば良いというスタンスなので、そういう態度に違和感があります。

まぁそれはさておき、この展覧会を見て、4人の作り手の作品が特に印象に残ったので、徒然なるままに。

まずは舛次しゅうじ たかし
この人の作品は紙の茶色と、その紙に描かれた黒の存在感、この取り合わせが美しいです。特に「うさぎと流木」という作品は、黒と茶のバランスが絶妙で素晴らしい。

次に、蒲生がもう 卓也たくや
この人は動物が大好きなんでしょう。画題は犬や魚といったものですが、その描かれ方が個性的。細かい粒の積み重ねで表現しているんですが、その粒のビビッドな色遣いと取り合わせに目を瞠らされます。
ところでこれらの作品ってトレースなのかなぁ。もしトレースじゃないとしたら描画力もかなり高いですよね。「アメリカザリガニ」の手前側のハサミなどを見ると、特に感じます。

そして、木本きもと 博俊ひろとし
この人の作品、とりわけ無着色のペン画は隙が感じられない。これとかこれとかスゴいですよ。
マックス・エルンストがこういうのを描いていたような。

最後は、すずき 万里絵まりえ
冒頭に述べた日曜美術館を見ていて衝撃を受けたというのはこの人です。
まさに凄まじいとしか表現のしようのない、とんでもない迫力の絵を、実際目の当たりにして、もう何10分も立ちすくんでしまいました。

日曜美術館で放映されていたシーン中、フランスのキュレータの女性が、個人的には不快で部屋に飾りたいとは思わない絵だが、キュレータとしてはこの絵を取り上げざるを得ない的な発言をしているのがありました。たしかに暴力的で禍々しい絵だとは思いますが、私は不快という印象は抱けませんでした。というよりも快不快とか感じる以前の問題。人間が根源的に持つ暴力や攻撃性といった、人間の本質をまざまざと見せつけられるようで、絵に飲まれっぱなし。
絵が持つテーマも凄いですが、画面構成や使用色、描き方の独自性などといった面も素晴らしいと思います。

この展覧会では「終末」「あほがみるけつ」「全人類をペテンにかける」「人にみえぬぞよき」「発現スルハ我ニ有リ」「泥の中のメメントモリ」の6点が展示されていました。
これ以外の作品も見られる範囲で見てみましたが、絵もイイですが、タイトルも詩情が溢れててイイですねぇ。

これらの人たち以外にも、ヘンリー・ダーガーばりの膨大な物語をその背後に有していそうな作品を描いている人もいたりして、かなり興味深い展覧会でした。



Comments

Tell me what you're thinking...
and oh, if you want a pic to show with your comment, go get a gravatar!





WP-SpamFree by Pole Position Marketing