『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』
『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』
東京国立近代美術館で2012年2月10日（金）～5月6日（日）の会期でおこなわれている標記展覧会を2012年3月30日（金）に見てきました。
ジャクソン・ポロックというと、床に置いたキャンバスにペンキを垂らす技法で抽象画を描いて成功した画家、という印象を持っていましたが、実際は違うんだなぁ、ということが分かりました。
ポロックは自分のスタイルを確立しようと、もがき苦しみながら、失意のままに死んでしまった画家だったんですねぇ。時代を追って絵を見続けていると、ポロックの苦悩が突き刺さってきて、痛くて痛くて堪らなくなりました。
ポロックの軌跡は3つに分けられるということでした。
最初は、シュルレアリスムやフォービスムをベースとした具象画系の時代。
次は、ポロックの代名詞であるペンキを垂らした抽象画の時代。
最後は、ペンキを垂らす手法を使いながら具象画的な像が出てきた時代。
最初の時代の絵は、フォービスム系のものは個人的には好ましい絵ですが、これを突き詰めていっても二流、三流どまりだったかもなぁ、という印象。
あと、ピカソ風だったりミロ風だったりクレー風だったりがあまりに露骨で、かなり迷走しているなぁ、と強く伝わってきます。
次は最も有名な時代。
キャンバス全体にインクを垂らす手法、私は「ドリッピング」という名称だと記憶していたんですが、「ポーリング」というのが正しい名称なんですね。
ドリッピングはインクを単にポタポタ滴らせることで、インクを垂らしながら筆をキャンバスに接触させずに線を描くのはポーリングと言うとのこと。
この技法でもって、地も図もない「オール・オーヴァー」と呼ばれる抽象画を描いたことでポロックは美術史に残したわけです。
その絵に対して「まるでカオスだ」という評に対して、「何がカオスだ」というような応酬をしたという説明が書いてありました。言った批評家も言われた画家も「カオス（混沌）」＝「でたらめ」という意味で捉えていたようにうかがえますが、カオスとは決してでたらめではなく、その中にちゃんと秩序があります。
ポロックがこういう抽象画を描いた20年ほど後にマンデルブロによってフラクタル理論が発表され、カオスやフラクタルという新しい意味が誕生しますが、その理論がポロックがポーリング技法で描いているときに発表されていたら、ポロックの名声はもっと高いものとなっていたんではないでしょうか。そして画家として満足できる一生を送ることができたんじゃなかろうか、という想いを抱きました。
さて、カオスだ、と言われて凹んだのか、オール・オーヴァー・ポーリングは見た目どれでも同じように見えるので行き詰まってしまったのか、やがてポーリング技法を使いながらも、具象画的な感じの線が現れるようになります。この時期の絵は「ブラック・ポーリング」と呼ばれるとのこと。
抽象画から具象画に移行したことで、批評家からは一斉に「退行だ」と酷評の嵐だったそうですが、たしかにオール・オーヴァー・ポーリングの後にブラック・ポーリングを見ると、退行にしか見えませんなぁ。
そして間もなく、交通事故で44年の生涯を閉じてしまい、ポロックの画業は途絶してしまうわけです。
このポロックという人、ずいぶん心が弱い人だったようですね。画業初期の時点で既にアルコール依存で精神分析受けてたらしいし。
もう少し図太い神経していたら、オール・オーヴァー・ポーリングで得た名声と富を肯定的に受け入れ、前向きな気持ちで自分のスタイルのさらなる追求ができたんじゃなかろうか、という印象を受けました。
再現されたアトリエの床
Comments
One Comment on 『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』
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dezire on
日, 6th 5月 2012 3:52 PM
こんにちは。
私もポロックの展覧会に行ってきましたので、興味深く読ませていただきました。
衝撃的なインパクトのある作品で、美術の中心をパリからニューヨークに引き寄せ、美術の概念を根本的に変えた画家のいうのも分かるような気がしました。
私も私なりにポロックの絵画の何が斬新的か？ポロックの魅力的は何か？について感じるところをまとめてみました。ぜひ一読してみてください。
ご感想、ご意見などどんなことでも結構ですから、ブログにコメントなどをいただけると感謝致します。
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